ブッダガヤ大菩提寺奪還運動のこれまでと現在の活動について

ブッダが菩提樹下に座してさとりをひらかれた仏跡第一の聖地ブッダガヤ。

その金剛宝座にそびえ立つ大菩提寺は2002年ユネスコの世界遺産に登録されています。しかしこの全世界の仏教徒の聖蹟は、18世紀初めごろより現地のヒンドゥー教バラモンの管理下となり、現在もなおヒンドゥー教徒主体の管理法が適用され、治安や寄付金管理などで多くの問題を抱えています。

佐々井上人はこの状況を目にして、1992年から現在までナグプールの仏教徒と共に大菩提寺の返還運動を行っています。

首都デリーやブッダガヤに向けてのデモ行進は十数次にも及び、インド政府大統領やビハール州首相に陳情書を提出し、国連のアナン事務総長(当時)に書簡を送り、パリのユネスコ本部を訪れてこの問題の国際的な関心を提起しました。

1949年ビハール州制定のブッダガヤ大菩提寺管理法では、ヒンドゥー教徒4名、仏教徒4名とビハール州ガヤ地区長官(ヒンドゥー教徒)の9名が管理委員を構成することが決められており、実質はブッダガヤ地区の地主であるバラモンのマハンタ一族がその実権を有しています。

現在佐々井上人は、このブッダガヤ大菩提寺管理法の無効を訴える裁判を係争中です。(1950年施行のインド憲法で、それ以前の法律の無効が宣言されています。)この裁判は、佐々井上人本人が原告となり、自費で弁護士を雇って続けられています。

2017年5月、アンベードカル博士生誕祭でナグプールを訪れたナレンドラ・モディ首相に、佐々井上人は大菩提寺の現状を訴えました。

また7月に就任したラーム・ナート・コーヴィンド大統領は、ダリット出身のもとビハール州首相で、9月30日のナグプール改宗記念式典に出席し、佐々井上人と懇談しました。佐々井上人とインド仏教徒による様々な働きかけにより、大菩提寺管理権返還は実現されようとしています。

※写真はムカルジー前大統領に陳情書を手渡す佐々井上人

この運動には国際的な援助も行われています。

タイ、スリランカ、ネパール、チベットなどの仏教国からも支援者がナグプールを訪れています。

日本の伝統宗派では、臨済宗各本山・黄檗宗が共同で声明文を発表しています。(2005年)

大菩提寺管理権返還は、世界仏教徒がその根本聖地を取り戻し、ブッダガヤを中心に世界の仏教徒が結集し、人類に平和と共生を提言する仏教の未来に大きな貢献となるでしょう。

またアンベードカル博士により復興を遂げつつあるインド仏教徒にとっては、自らの宗教の歴史的な拠点の獲得という重要な課題です。

南天会では、佐々井上人を通して裁判費用などの支援を展開し、また日本国内でのこの問題の周知、世論喚起に努めてまいります。ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

ブッダガヤ大菩提寺返還運動報告 2019年3月20日更新

佐々井上人緊急来日

「ブッダガヤ大菩提寺返還に向けて」全日本仏教会申し入れ 名古屋 東京集会 開催しました

 佐々井上人はブッダガヤ大菩提寺管理権返還に向けての裁判が本格審議に入る中、全日本仏教会にこの問題の周知と協力を要請するため、急きょ来日されました。11月6日から13日まで一週間日本に滞在され、7日に支援者との座談会、10日に名古屋集会、12日に全日仏申し入れと東京集会を行いました。

 

 2012年より佐々井上人が原告となりインド最高裁に提訴している1949年ブッダガヤ寺院法の無効を訴える裁判が、本年7月から本格審議となり、7月20日第1回、9月24日第2回の審議が行われ、佐々井上人は有力な弁護団を組織して、9月には自らもデリーの最高裁に出廷し、いよいよ結審に向けて動きはじめました。これに伴い弁護士に支払う裁判費用を準備する必要があり、南天会でもパンフレットを作成するなどして、6月の来日時にアピールを行い会員の皆様にも告知させていただきました。おかげさまで順調に裁判費用支援は集まっております。

 しかし、ブッダガヤ大菩提寺返還という世界の仏教徒にとっての最重要課題であるにも関わらず、日本においてはこの問題についての関心があまりに薄く、今一度日本仏教徒にこのことを真剣に考えていただきたいとの思いから、各伝統教団が参加する日本唯一の全国組織である全日本仏教会に申入れを行うことになりました。佐々井上人は単身飛行機で成田に到着され、南天会が対応して来日をお世話しました。

 

11月10日 「ブッダガヤ大菩提寺返還に向けて」名古屋集会

名古屋市の八事山興正寺光明殿にて講演会開催。南天会賛同人の小池一郎さんが中心となり企画されました。

事務局による返還運動についての経緯説明の後、いつもの如く立ったままで聖地奪還への決意を語られました。佐々井上人が特に訴えられたのは、筋を通すということ、問題を先送りにしないということであったかと思います。インド仏教徒にとっては、「ブッダはビシュヌ神の化身である」とするヒンドゥー教の教えは、カースト差別を否定した仏教を根本から否定することであり、それを理由に大菩提寺がヒンドゥー教の寺院でもあると主張する管理委員会の言い分は、決して容認できないものです。また100年以上も前から多くの人々が携わってきた大塔返還への道のりは、何としても成就せねばならないことであり、様々な利権や錯誤を残したまま、問題を有耶無耶にしたのでは未来は開かれません。まさに共に暮らしてきた人々が望む大塔の返還を、佐々井上人は自らの使命と認め、最後までやり抜くことを決意されているのです。

 

11月12日 全日本仏教会への申入れ 東京集会

 午前11時、東京芝の増上寺境内地にある全日本仏教会の事務所を訪れ、戸松義晴事務総長、和田善秀総務部長と面会し、江川辰三会長、副会長、代表理事あての申入書(後段掲載)を読み上げ提出しました。

 南天会の世話人賛同人10名が同席し、戸松事務総長と懇談いたしました。戸松事務総長からは、この場ですぐに協力を決めることはできないが、会長以下理事の皆さんに伝え理事会で審議することを約束され、また自身が執行役員を務めるWFB(世界仏教徒連盟)のパワン・ワナメッティ会長にも伝えたいという発言がありました。後日、同席していた南天会世話人の中村龍海氏が申入書を英訳し、戸松事務総長に送っております。

 なお、この前の週の11月5~9日にかけて、WFBの世界仏教徒会議が日本で開催され、全日仏が主催者となり様々な会議や催しが行われています。しかしその会議の席上で、ブッダガヤ大菩提寺の管理権の問題が議題に上がることは残念ながら無かったようです。戸松事務総長によると、WFBの現会長はこの問題に関心を寄せているということだったので、佐々井上人の申入れが届くことを期待します。

 

 午後からは、浄土宗大本山増上寺の会場をお借りし、「ブッダガヤ大菩提寺返還に向けて」東京集会を開催しました。

今回の来日が決まった時、せっかく全日仏に申し入れをするのだから是非大勢の人を集めて、マスコミにも宣伝し、また研究者の方々にも集まっていただき、日本仏教徒がブッダガヤについて考える一つの機縁にしたいと思いましたが、力及ばずそこまでの準備はできませんでした。

 現在の日本においては、かつてダルマパーラが来日し、印度仏蹟興復会が結成された明治の時に比べると、明らかに日本人のブッダガヤに対する関心は低調です。単なるパワースポット的な場所としての認識が大勢を占め、その歴史的、また仏教的な理解は非常に薄弱で、それはブッダガヤに参拝する日本人の態度にも表れています。佐々井上人は、日本の仏教徒は世界の仏教徒と共に道を歩んでいないと言われます。それはインドの今や1億人を超える仏教徒に対してもそうだと言えます。支援や協力と言っても、本当の意味で仏教徒民衆とは密着していない、だからブッダガヤにも関心が無いのだと。宗派に分かれていることも問題です。インドに来てまで自分の宗派の枠から出ることができない。それでは民衆と密着することはできない。

アンベードカル博士の話をされました。

 現在の日本人には想像もできない辛酸をなめてきた人々を導いて、カースト制を撤廃し、仏教復興を成し遂げた不屈の魂。佐々井上人は、その著作を読みその後を慕い、アンベードカル博士の人生に感動していると言われます。「教育せよ 団結せよ 闘争せよ」という博士の言葉に従い、それを実践していくのだと。だからブッダガヤの問題も「闘争」ということにおいて必ず完遂しなくてはならない。大菩提寺とは仏教徒にとっての心臓である。その心臓を他宗教徒の管理に委ねるということでは、仏教の未来は開かれない。

 

「私はやり抜きます!」

 

この日、いつにも増して力強く息をのむような迫力で話をされた佐々井上人。その決意が十分に伝わった講演となりました。最後には参加者全員で「ジャイ・ビーム」三唱。翌日には成田からインドに帰国されました。南天会は、佐々井上人の大誓願であるこの運動にできる限りの支援をしていきたいと思います。皆様是非ご協力ください。

 

全日本仏教会申入書.pdf
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the World Fellowship of Buddhists申入書.pdf
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裁判状況報告

2019.1.20

 昨年9月24日に決定された1月3日の第3回公判について、インドラ寺事務局長のアミット氏がデリーに向かい、原告側(佐々井上人)弁護団と打ち合わせを行いましたが、事務手続き上の不備により今回は審理、裁判は行われませんでした。昨年10月に最高裁判事(チーフジャッジ)が交替し、前任者(政権寄りとみられ仏教徒に不利な判決を下す可能性があった)が9月24日の決定書類にサインをしていなかったことが原因とのことです。後任のランジャン・ゴーガイ最高裁判事は公平な裁判が期待できる人事となっています。

 現在インド国内では、アヨーディヤー事件の判決(注※)や農民による借金無効裁判、モディ政権の汚職など重要な裁判が次々と行われており、ブッダガヤ大菩提寺管理権裁判は継続審理状態に据え置かれる状況となっています。佐々井上人の弁護団は、この大菩提寺管理権問題がインド国内のみならず国際的にも注目される非常に重要な裁判であることを訴えて、来月2月にも早々に審理を開くよう要請するため、原告の佐々井上人と連名で嘆願書を提出する方針です。

佐々井上人側の弁護団は、元最高裁判所長官のK・G・パラクリシュナン氏、マンモハン・シン首相の時、法務大臣、外務大臣を歴任したコングレス党のサルマン・クルシッド氏をはじめ、最高裁判所主席弁護士や元インド司法長官等5名の著名な弁護士に依頼しています。

 ※アヨーディヤー事件 1992年ウッタルプラデーシュ州アヨーディヤーのイスラム教寺院バーブリー・マスジットをヒンドゥー教原理主義者が破壊したことをきっかけに、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立が激化し、全インドで1200名の死者が出る事件となった。当時UP州の政権党だったインド人民党は解任され、支持母体のRSS(民族義勇団)は非合法化された。昨年最高裁で、BJP側の主張が退けられる判決が出ている。

 

2019.3.20

 1月に提出した嘆願書によって仮に組まれていた3月11日の公判について、またしても審議が開かれませんでした。 現在、アヨーディヤー問題の審議の為にインドでは宗教紛争が大変な政治問題となってインド全国で注目されています。

 インド最高裁判所はアヨーディヤー問題の解決の為に当事者ヒンドゥー教徒、イスラム教徒の各代表を呼び出し3月12日から25日まで最高裁判所を閉鎖して問題の解決の為に集中審議を行います。 そのような中、ブッダガヤ大菩提寺裁判を開かせないように、また訴え自身を却下させようと私共原告団に大変上から圧力が掛かって来ております。 デリーの最高裁判所に赴いたインドラ寺事務局長のアミット氏は弁護団とナグプールにおられる原告代表の佐々井上人と密に電話で協議し一歩も後ろには引かない、なんとしても世界的な問題、全世界仏教徒の悲願であるこの問題を解決する為に全生命をかける覚悟であることを確認しました。

 アミット氏は最高裁判所判事、また重要な関係者に引き続き審議開催を訴える為にデリーに残って交渉を続けております。 佐々井上人はデキィシャブーミ、アンベードカルガレッジにて重要な会議があった為に デリーからくる弁護団からの電話で協議され、対応を求められましたが一歩も引き下がらないこと、ただ前進あるのみであると伝え、弁護団とも方針を確認しました。最高裁ホームページでは、次回日程について4月12日と記載されていますが、流動的であるという注意書きが付されています。審議日程が確定されるように全関係者で働きかけを行ってまいります。

 

 

裁判費用をご援助ください。
ブッダガヤ大菩提寺解放本部日本窓口 南天会
ゆうちょ銀行払い込み専用口座
番号  01380-0-90164
口座名 南天会
※「大菩提寺裁判費用援助」と明記ください。
  支援金は当会でとりまとめ、インドのブッダガヤ大菩提寺解放本部の口座に送金いたします。
支援者の方には、南天会会報「龍族」にお名前を記載し、裁判経過および返還運動の状況を報告いたします。現在係争中の裁判情報は以下の通りです。
インド最高裁判所 市民法廷 書面告訴
2012年 訴訟番号380

大菩提寺管理権返還運動.pdf
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